12月25日、裁判の会は、美浜の会(小山英之代表)と共同で「玄海原発事故による放射能拡散・被曝——規制庁試算方式に基づく問題点」を公表しました。(※詳細は下)
原子力規制委員会が示した原発事故時の放射能拡散の試算(10月24日公表、12月13日総点検版公表)は、「7日間で被曝線量100mSv」に及ぶ地域を避難の基準にして、地域防災計画を立てることを求めています。しかし、これは防災計画の範囲を30km圏内に収めることを目的として、それに合わせるような試算を行っているに過ぎず、このような基準自体が極めて無謀なものです。
事実、この試算自体が相当な過小評価となっていました。その最たるものは「97%値方式」です。
16方位それぞれの風向・風速・大気安定度・降水量について、1時間ごとのデータを1年間分集めると、8760個(24時間×365日)となります。 福島第一原発1〜3号機事故並みの放射能放出が起こった時の、それぞれの気象条件(8760個のデータ)ごとの放射能の空気中濃度計算値を小さい方から並べたうちの「97%」目の数値を用いており、最も高い被ばく線量を与えるべき3%分(262.8個のデータ)を切り捨てているのです。
規制委員会が公表している南西方向のデータでは、100%値の場合の最大距離が「すそ値」として記述されていて(44頁)、65kmとなっています(97%値では29.1kmとなり30km圏内に収まっていましたが、その2倍以上の距離)。これを手がかりにして、気象条件としては遠くまで安定して飛ぶ場合の大気安定度F型を仮定すると、100%値の場合の距離ごとの被ばく線量が求められます。
南西方向以外は、データが公開されていないので、頻度と風量などがそれほど違わない南東方向と東方向にもこの汚染図を落とし込むと、佐賀市、福岡市もすっぽりと避難地域に含まれるのです。
さらに、「7日間で20mSv」(福島で避難基準とされたのは年間で20mSv)の100%値での範囲は半径270キロに及び、四国や広島近くにまで達します。
安全のためには、年間1mSvという公衆の被曝の限度を守るのが大原則であったことも忘れてはなりません。
また、方位内では横方向(風向きと直角な水平方向)に平均を取っていますが、扇形領域の中心線上では、平均値の数倍の線量になります。
このような隠された内容を正当に評価すると、被ばく線量は著しく高くなり、防災計画によって被害を防ぐという考え方が無意味であることが明らかです。原発を止めるしか、放射能被害を防ぐ手立てはありません。
私達は、この期間、佐賀県や福岡県の市町の首長や担当者にも、この問題点について説明してまわっているところですが、ある首長は私達の説明を聞いて「事故が起きたら、九州中、どこにも逃げられないですね」とがく然とされていました。
これだけの問題を含む予測に基づいて、防災計画を自治体に立てろというのは無謀な話です。
原子力規制委員会は、3%分を切り捨てない場合の被ばく線量をただちに公表すべきです。