7月18日、玄海原発3号機MOX燃料使用差止裁判は証人尋問(第12回口頭弁論)が行われ、ヤマ場を迎えました。
佐賀地方裁判所の法廷は傍聴者であふれかえり、一部交代してもらって、裁判所に集まったほとんどの人が傍聴することができました。
これまで多大なるご尽力をいただいた小山さんと弁護団の先生方に私達は感謝の念でいっぱいです。
5時間にわたった尋問の様子をダイジェストで報告いたします。同封した争点リー フレットとあわせてご覧ください。(争点リーフレットはこちらのページよりご覧になれます)
また、証人尋問のすべてを記録した「調書」をHPに公開を予定していますので、そちらも合わせてご覧ください。
尋問記録:荒川謙一、豊島耕一、緒方貴穂、 永野浩二(文責)
危険な MOX 燃料を使うな!九電は“商業機密”をすべて開示せよ!核燃サイクルを止める一歩へ!
午前10時、「これより開廷します」と、裁判長がいつもと同じ淡々とした調子で告げました。
前半は、被告九州電力の技術社員、小鶴章人氏(原子炉主任技術者として専門的技術と知見を三菱重工業の協力を得て習得した)への証人尋問。裁判長は小鶴氏を証人席へ呼び出し、「証人はうそを言わないということを宣誓してください」と促し、小鶴氏はそのとおり宣誓しました。
書面の確認など、事務的なやりとりの多い、これまでの口頭弁論とは違った雰囲気で、証人尋問は始まりました。
九電証人・小鶴氏への被告側・熊谷弁護士による主尋問
小鶴氏は「MOX燃料とウラン燃料とでは両者とも核分裂は起こるので本質的に相違はない」「内圧評価値は内圧設計基準値を上回らないように決められているのでギャップ再開は起きない」「仮にギャップ再開が起きても、制御棒で自動運転停止する。また福島と違って、水があるから燃料溶融にいたらない」等の従来の主張を展開しました。しかし、すべては三菱重工業で研究作成されたとする「FINEコード」の正しさを元に述べたに過ぎず、「FINEコード」の中身が公表されないかぎり、証拠性はないのではないでしょうか。
また、MOXとウランの挙動の違いについて、ポイントとなっている「図3-3-(2)」について、「補足的に出した資料であり、MOXとウランが同じ傾向だということを示しただけで、具体的な評価をしているわけではない。精緻なデータではないので、原告の計算に耐えられるようなデータではない」と主張しました。
九電証人・小鶴氏への原告側・武村弁護士と谷弁護士による反対尋問
【争点1 MOXとウランの挙動の違いについて】(武村弁護士)
・小鶴氏は「図3-3-(2)」について、原告が読み取った「9点の見落とし」について「重なっているものの下側にあり不確かなものとして読み取らなかった」と、点の存在は認めました。
・武村弁護士が「被告は当初、“同等”と言っていたのを、“同様”と言い直しているが、どうか」と聞くと、小鶴氏は「その違いを考慮していない」と回答。
・EFPH(全出力換算時間)について、小鶴氏が「ペレットの燃焼度を経過時間に置き換えることはできない」と主張していることに対して、武村弁護士は被告の「論理的矛盾」を指摘しました。
・小鶴氏が「ペレットの燃焼初期の焼きしまりを考慮しないことで、内圧評価値を厳しく評価した」とする見解に対して、輸入燃料体検査申請書に記載があるかを確認すると、小鶴氏は「調べてみないと分からない」と回答。この点について、後で裁判官からも「どこに書いてあるのか根拠を示してくれ」と問われ、小鶴氏は答えに窮する場面もありました。
・プルトニウム組成について「実際の燃料のデータではないということでいいか」との質問に、小鶴氏「それは商業機密ですから。メーカーが判断すること」と回答しました。
・初期ヘリウム加圧量について「被告は加圧量を減らしたが、“自由に設定できる”と言っている。下限値はないのか」の質問に、小鶴氏「数値ではなく、考え方を示したものだ」と主張。「ヘリウム加圧量を下げたのは、内圧評価値が制限量を超えたからだろうが、理由は言えないのか」と質すと「評価していないから言えない」と回答しました
【争点3 ギャップ再開から燃料溶融にいたるのか】(谷弁護士)
谷弁護士は「ギャップ再開を起こしてはならない」と法的に要求されていることを、小鶴氏にまず認めさせました。
被告がハルデン炉実験を行ったことについて、「そもそもギャップ再開を起こしてはならないのに、“ギャップ再開を起こしても燃料溶融にいたらない”という結果を出してくるということは、法に挑戦しているのでは」と追及すると、小鶴氏は「事象を分析するために実験した」と弁解。谷弁護士はさらに、ハルデン炉は被覆管に外部からガスを注入し内圧を上昇させたのに対し,実際はペレットから発生するガスによる圧力上昇であるという違いも指摘し、小鶴氏もこれを認めました。
さらに被告の「被覆管は損傷しない。損傷しても、燃料溶融に至らない」とする見解について、谷弁護士が「そういう文献はあるか」と尋ねると、小鶴氏は「これは一般的事象を、メーカーの専門家が分析したもの」と回答。谷弁護士「メーカーは論文を書いているのか」、小鶴氏「分かりません」とぼかしました。
【争点4 使用済MOX燃料の超長期保管の危険性】(谷弁護士)
谷弁護士「むつ中間貯蔵施設のことは陳述書に書いてあるが、使用済MOX燃料を運べるのか」
小鶴氏 「むつがあるという事実を書いただけ。技術があるというだけで、現時点で施設はなく、具体的搬出先はない」
谷 「廃炉後も玄海に使用済MOX燃料をおいておくのか」
小鶴「今、国で検討している」
谷 「超長期に置いておく可能性はあるのか」
小鶴「可能性はある」
谷 「超長期保管の場合のピットの安全性は、検証されているか。」
小鶴「適切な管理をやればいい。技術的に確立しつつあるし、ステンレス鋼製の燃料ピットは強くできているので長く持つ」
谷 「プールの冷却系統は耐震ランクBクラスだが」
小鶴「ランクはよく知らないが、地震でも水がなくならないようにすれば大丈夫」
谷 「超長期にわたる使用済みMOX燃料の安全性管理の責任は誰がとるのか」
小鶴「施設を管理している者」
谷 「それは誰か」
小鶴「今は九電。超長期には…分からない」
谷 「未来永劫、九電があるかどうか分からないですからね。MOX燃料はこんなにも取り扱いにくい。プルサーマルをやめるべきと思わないか」
小鶴「取扱いにくいと思わない。プルサーマルをやめるべきと思わない」
安全に関する重要な質問に対して、事業者として当然答えるべきところを、はぐらかすような回答ばかりでした。しかも、小鶴氏は蚊の鳴くような小さな声でぼそぼそと話すので、裁判官から「もっと声を大きく」と何度も促されていました。
反対尋問後、裁判官は被告証人に対して、九電が主張する根拠を示す資料を出せるかどうかを何度も確認しました。
右陪席(裁判官)「『焼きしまり』を考慮しない厳しい条件とはどういうことか。その根拠及び理由はどうしたら分かるか」
小鶴氏「評価手法を交え輸入燃料体検査申請書を提出している」
右陪席「申請書を見れば、分かるのか」
小鶴「申請書では分からない。審査の中で説明している」
右陪席「何を見れば分かるのか」
小鶴「メーカー(三菱重工業)がやっている」
右陪席「メーカー資料を出してもらえるか」
小鶴「今は分からない」
原告証人・小山さんへの大橋弁護士による主尋問
後半戦は、原告側証人として小山英之さんが証言台に立ちました。被告側証人と同様、「正直に話します」との「宣誓」から始まりました。
小山さんは「私は原子力の専門家ではない。原子力情報の多くは『企業秘密』であり、知りうる立場にない。数式やパラメーター等の値は企業秘密なので、グラフを見て“モノサシの術”を使って読み解いている。福島原発事故の教訓として、原子力村の外にいる一般市民が意見を言うことが大事であり、私はそういう立場だ」と冒頭にまず宣言しました。
「MOX燃料はプルトニウムと劣化ウランからなり、プルトニウムはウランとは燃える特性等が大きく異なる。玄海原発でMOX燃料を使用することは設計上想定していなかったことなので、使用は避けるべき」として、ギャップ再開から燃料溶融に至る危険性を明快に主張しました。
原告証人・小山さん証人への九電側・熊谷弁護士による反対尋問
【「図3-3-(2)」からギャップ再開を導き出せるか】
原告の「運転末期の56日前にギャップ再開が起きる」とした計算根拠について、「図3-3-(2)」の持つ重要性を無価値なデータと印象付けようとして、九電は執拗に聞いてきました。
熊谷弁護士「EFPH(全出力換算時間)は原子炉全体の出力のことではないか」
小山さん 「ペレットの出力だ。燃料棒ごと、あるいはペレットごとの定格出力が定義されないとEFPHは定義できない」
熊谷「個々のペレットの出力が明かでないのに,どうしてEFPHに置き換えられるのか」
小山「最後の点のEFPHと燃焼度が一致するとし,途中は比例するものとして対応させた」
熊谷「個々のペレットで密度変化を知ることができるデータではない。燃焼前の値が分からず厳密な評価が出来るのか」
小山「このデータをそのまま玄海3号に適用するわけではない。MOXとウラン燃料との、集団としての違いを見ている。ある学校で小学校1年生のクラスの1年間の身長の伸びを見る場合は、1年間の平均値の伸びを算定する。その場合、入学前の身長や赤ん坊のときの身長は関係ない。限られたデータから現実の状況を推測するという手法はFINEモデルでも同じではないか。限られたデータでもその使い方次第では意味がある」
熊谷「統計的な意味しかない。これをウラン燃料に対する修正として使えるのはなぜか」
小山「このデータは普遍性を持つと考える」
【サーマルフィードバックによる急激な温度上昇】
熊谷「『過大な温度上昇』とあるが、そのあと『急激な温度上昇』になっている。急激とはどれくらいのスピードか」
小山「正のフィードバックが起きるということを述べているので、この言葉を使った」
熊谷「最も速いとき,何時間で何度の温度上昇か」
小山「そのような想定は試みていない」
熊谷「ギャップ再開時の燃料ペレットの温度はいくらで、それがどのくらいの時間で、何度になったら溶けるのか」
小山「はじめの温度はよく知らない。ジルコニウム-水反応まで行くと、秒単位で溶融する」
熊谷「数百度上昇しないと溶融にいたらないとすると、急速に溶融するとは言えないのではないか」
小山「正確なところは私には解析できない。他にジルコニウム-水反応という要素もある」
熊谷「どのようなスピードで溶融が起きるかについては証言していない、ということでいいか」
小山「はい」
熊谷「仮にペレットが溶けても、冷却水で冷やされるのではないか」
小山「いつも水があるとは限らない。スリーマイル事故のケースでは配管破断でなくても水が抜けた」
九電は溶融温度とそれに至るまでの時間などを原告に聞いてきました。根拠を持っていないと印象付けるためです。
しかし、原告にはメーカー等が持つ詳細なデータを得ることができないので、回答できるはずもありません。小山さんが毅然と答えることで、事業者が安全性の立証責任を放棄していることについて浮彫になりました。
勝利判決を!
玄海MOX裁判は9月19日結審、年内判決の見通しです。
裁判官は科学者でも技術者でもありませんが、今、良心に従って判断を出すべく、玄海原発のMOX燃料の具体的危険性について一生懸命勉強をされています。これまでの手ごたえは、決して悪いものではありませんが、予断を許しません。
今、川内原発再稼働が迫っています。これが突破されれば、玄海、伊方、高浜など他の原発の再稼働もあっという間に進められるかもしれません。
本裁判は、玄海原発3号機で使われているMOX燃料の具体的危険性を問うているものですが、大飯判決後に最初に判決となるかもしれない本裁判に勝利することは、玄海再稼働のみならず、狙われている全国のプルサーマル炉の再稼働の動向にも影響をあたえると思います。そして、破たんしている核燃料サイクルの息の根を止めることにもつながっていくことでしょう。私達は、この裁判になんとしても勝利しなければなりません。
そこで、お願いがあります。全国のみなさんにも、何が問題になっているのかを共有していただいて、この裁判の後押しをしていただきたいのです。どこへでも伺いますので、座談会や報告会を開かせていただけないでしょうか。
裁判を支えてください!みなさんのチカラを貸してください!よろしくお願いいたします。
報告集会で閉会挨拶に立った荒川謙一副団長の締めくくりの言葉を最後に紹介します。
「九電の無責任な態度を法廷の中でも外でも目の当たりにして、つくづく思うんです。
─私達は負ける気がしない!」