【「要援護者の避難、考えれば考えるほど不安に」~民生委員の経験から意見陳述】
7月28日、玄海全基差止裁判第22回口頭弁論が開かれました。
36度の猛暑の中でしたが、地裁に駆けつけた仲間とともに門前で短時間アピール行動を行ってから入廷しました。
今回は福岡市の原告、松尾邦子さんが意見陳述を行いました。
松尾さんは民生委員として日々町内を見回ってきた経験から、様々な病気などを抱えている地域の要援護者の置かれた状況を克明に触れながら、「原発事故が起きたら「誰のどんな協力の下でどうやって助けるかと、考えれば考えるほど不安になりました」と話し、子ども達や社会的弱者の生存権を脅かす原発再稼働の中止を訴えました。立川毅裁判長らには判断を下す大前提として、心の中に刻み付けてほしいと思います。
要援護者避難の困難さは最も酷い人権侵害の一つ。避難訓練などの際にも私達もしっかり見て、感じ、それを自治体への要請行動などにつなげていきましょう。
次回9月8日(金)の弁論では原告側から小山英之さん(美浜の会代表)、被告側から九電社員2人が証人として証人尋問が行われることが正式に決まりました。10時~17時まで丸一日かけて、基準地震動や配管損傷問題などについての尋問が行われます。
裁判も大詰めを迎えています。良心ある司法判断を後押しするためにも、傍聴をよろしくお願いいたします。
★今後の裁判日程
9月8日(金)10:00~ 全基差止第23回口頭弁論→14:00~に変更(証人尋問は延期)
9月15日(金)14:00~行政訴訟第15回口頭弁論
12月1日(金)14:00~行政訴訟第16回口頭弁論
陳 述 書
2017年7月28日
佐賀地方裁判所御中
住所 福岡市
氏名 松 尾 邦 子
(1)
本日は意見陳述の機会を与えていただきありがとうございます。私の住まいは玄海原発からおよそ40キロ地点で福岡市早良区の南西部です。30キロ圏外ではありますが、福島の事故のような過酷事故が起きれば放射能は空気や水、風にのって、周囲の都市をも汚染し続けるのは想像に難くありません。福島の事故でいまだにふる里に戻れない人々の悲しみや苦しみを思うにつけ、日本は2年以上も原発なしで暮らすことができた今、この玄海原発はもちろん、過酷事故を起こしかねないすべての原発とたまり続ける核のゴミを未来ある子供たちに残してはいけないと思って原告になりました。
私は長年教職についていました。退職後まもなくして、2011年3月のあの東日本大震災と福島原発事故起きたのです。それからずっとずっと心を痛めて生活をしてきました。そのような中、たまたま2014年の3月から約3年間、地域の「民生児童委員」になりました。私は教職の経験や長年独り暮らしだった母への想いを生かして活動しました。その中で感じたことを中心に原子力災害に対する不安を意見として述べたいと思います。
(2)
はじめに、「民生児童委員」の仕事の一つに「要援護者」の対象となる方の把握と高齢者の現状の確認があります。「要援護者」とは要支援、要介護認定を受けている方で、まったく身寄りがない、もしくは近くに身寄りがなく、災害時には周りの助けが必要な方です。私の地域は前年度からの引継ぎで、65歳高齢者の夫婦2人だけの世帯は31世帯、一人住まいの高齢者は25名。その中で、要援護者は7名でした。そこでまず、65歳以上のいる約170世帯にあいさつ回りをしました。その結果、引き継いだ要援護者7名のほかにも心配な方が次々にみつかりました。この方たちは、自分の事情を近所に知られたくない、あるいは迷惑をかけたくないという理由から公的名簿に登録したくないと同意書を提出されていません。同意されないと、プライバシー保護のため地域における協力は依頼できない仕組みになっています。私の担当地区では次のような方々がいました。
40代で脳卒中の病気で歩けなくなった車いす生活のAさん、足が痛くて時々何日も家から出られなくなるBさん、お酒を飲み続け近所との付き合いが希薄なCさん、心臓病や糖尿病を持ち足にしびれや痛みがあるDさん、被曝者手帳を持ち腰痛がひどく数か所の病院に通うEさん、夫婦二人住まいでも、どちらか片方が脳梗塞の後遺症で歩行困難であったりアルツハイマー病が進行中であったりのFさんとGさん、又よそのうちに上がり込んだり、町内を一日中ぐるぐる回ったりの認知症を患うHさんIさん、ご主人は癌の手術後体調悪く、奥さんはパーキンソン病のJさんご夫婦、そして、姉、兄、弟3人とも精神障害で、別な意味でさらに厳しいKさんご一家など・・・です。どなたも薬を複数服用されていて緊急時の避難と避難生活は耐えられないだろうと思われました。こういう我が家も高齢者の2人暮らしです。連れ合いは心筋梗塞、脳梗塞経験者で薬が欠かせません。名簿に載ろうが載るまいが、詳しい事情が分かるのは民生委員ですが、災害時、私一人では助けられません。計20名を超える方々の避難は誰のどんな協力の下でどうやって助けるかと考えれば考えるほど不安になりました。一応町内防災組織というものは存在しますが形式的なもので、誰が誰をどのように助けるかまでは話し合われていないのが実状でした。これまでそれで済んだのは、幸いにも大きな災害はなかったからでしょう。しかし、年々風水害、土砂災害、地震の災害はひどくなりそうな日本です。福島の原発事故があった今、これからは原子力災害も考えていかなければならない時代になったのです。
しかし、私の知る限り早良区ではこの3年間、原子力災害について町内会で具体的に話し合われている所はないと思います。福岡市では年一回夏に市長と代表民生委員との懇談会がありますので、私は話し合いのテーマに「原子力災害時の要援護者避難について話し合ってほしい」と毎年提案しましたが、「懇談会のテーマにふさわしくない」となぜか却下されてきました。それでも気になる「要援護者の避難」について学ぼうと、私は昨年秋に糸島での避難訓練を見に行きました。高齢者や障がい者施設では、ほんの一部の職員が数人の入居者の代わりをしての簡単な避難訓練でした。一町内の訓練でも健常者が補助具を付けたりしただけの訓練で、福岡市の避難所に向けてわずか1台のバスでの避難でしたから、実際に起こったときに役立つとは言えないものでした。さらに今年の春、知り合いの小中学校の管理職に尋ねたときは、「子供たちの避難については教育委員会からは何の指示も降りてきていない。」と話していました。もし在校中に原発事故が起きたらどうするのでしょうか?二週間プルームが通り過ぎるのを、学校で窓を閉めて待つのでしょうか?必要なヨウ素剤の保管場所や服用の仕方を知っている人はいるのでしょうか?そもそも福岡市では防災危機管理課の避難計画案はまだ暫定版のままです。緊急時の対応が住民に周知徹底されていない中での玄海原発再稼働はどう考えても許されないと思います。
(3)
次に福島の事故後の話で感じたことです。避難の途中で、あるいは避難の長期化で心身共に状態が悪化し、亡くなったり生きる希望をなくした高齢者が孤立死されたり、農業や畜産業の方の自殺など多く聞きました。厚生労働省自殺対策推進室の調査では(東日本震災に関連する自殺者数平成23年4月~29年4月分)、福島県が一番多く90名、次が宮城の52名、そして岩手の44名です。(ちなみに茨城1、埼玉1、東京2、大阪1、京都1)又家族がバラバラになることが長期化して子供たちにも親にも悪影響が出てきていることを耳にするにつけ、心が痛みます。一番悲しくて震える思いで怒りがこみ上げたのは、避難先の学校で、原発事故が理由の「いじめ」に遭った子供たちがいたことでした。想像してください、自分の子供が、自分の孫がそんなつらい立場にいたらと。いじめられた子供たちは何の落ち度もないのに事故のせいでいじめられるのです。地元に住めず、離れざるを得ないことだけでも傷ついているのに…電力会社は少しでも責任を感じているでしょうか。
今年も九電の株主総会では「事故が起きないように固い決意を持って取り組むから安全です。」と九電経営陣側は言いました。原子力規制委員長は「安全とは言わない。」と公言しているのに、いつの間にか「絶対安全」と置き換えられているのです。事故というものは、いつも想定外が重なって起こるものです。絶対はないのではないですか?それに安全と言いながら一方で瓜生社長はアメリカの遺伝学者の説を取り上げてこう述べられました。「どんなに少ない放射能でも体に害はあるそうです、放射能は自然界にもいろいろなところに存在する、その中で、それらを体に受け止めながら生き延びていく人類、種が出てくるのだそうです。」と。私は耳を疑いました。今生きている人間が、そしてすべての生き物が原子力の災害にあわないように質問しお願いしている場で、このような話を披露する社長の感性を疑います。社員を含めてひとり一人の命、家族の営みに目を向けることなく、放射能に負けない人類や生き物の出現を夢見ながら会社の経営を考えておられるのでしょうか。
(4)
民生委員や地域の役員は、避難が困難な人たちの顔を思い浮かべながら日々見回っています。30キロ圏外であっても約156万人が住む福岡市、全体では510万人が住む福岡県も、重大な原発事故の発生でその暮らしが影響を受ける「地元」なのです。人間だけではありません。福岡動物園の動物たち、ペットや野生の生き物たち、避難者の通学、仕事、通院、食料、薬は?などなど私たちには具体的に何も知らされていません。住民への情報周知を含めての避難計画は完成されていない現状です。九電がよく口にされる「フェイス・トウ・フェイスの丁寧な説明」が福岡の人間にはなされないまま、また自治体の避難計画や避難後の生活補償計画の完成がないままの玄海原発再稼働は、子供たちや社会的弱者の生存権を脅かすものです。
原子力災害は、人災です。動かさなければ危険度は格段に下がります。やめていただくよう心から訴えまして私の意見陳述とさせていただきます。