火山灰の規準濃度が100倍規模に引き上がることに関して、現在の原発の状態が基準に違反することから、8月10日、佐賀県知事に対して「玄海原発3・4号機の再稼働同意を撤回し、新たな基準の下での審査のやり直しを求める」要請を行いました。
この問題を徹底追及してこられた「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武さんは、7日の政府交渉ののち、9日には鹿児島県庁へ飛び、その足で佐賀に駆けつけてくれました。
対応した佐賀県原子力安全対策課は「話を聞いて、上に伝える」という姿勢に徹しましたが、阪上さんは問題点を丁寧に説明し、「ここで問題になっている火山噴火の規模は破局的噴火のレベルではなく、桜島の大正噴火など100年単位で起こりうる現実的な話だ」「許可の前提条件が崩れた。再稼働は少なくとも、基準が変わって、必要な工事がなされ、審査をやり直し、県としても安全を確認するという手続きを踏んでからの話だ」と訴えました。
私達からも「九電交渉では『"適用除外"を社内規定で設けているから問題ない』と言われたが、その社内規定は市民には見せられないと言われた。規制庁交渉では『地元住民が規制庁に説明を求めたら来るか』といったら『全部は無理だし、いくつか選ぶのも公平性の観点からできない』とゼロ回答だった。市民が不安を九電や国に直接訴えても、何も応えてくれない。だから、県に伝えているんです。知事は県民に寄り添って、九電や国に働きかけてください」と訴えました。
要請行動終了後には記者会見も行い、一次資料のありかを何度も尋ねるなど、熱心に取材していただきました。記事となって、問題が顕在化されることを願うばかりです。
要 請 書
火山灰濃度基準が100倍に
玄海原発3・4号機再稼働準備を止め 審査やり直しを
2017年8月10日
佐賀県知事 山口祥義 様
玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会
プルサーマルと佐賀県の100年を考える会
玄海原発反対からつ事務所
原子力規制を監視する市民の会
原子力規制委員会は7月19日の会合で、火山灰の影響評価に用いる火山灰濃度を100倍規模に引き上げる方針を決めました。
そのため、非常用ディーゼル発電機のフィルター取り替えに要する時間よりフィルターが詰まる時間の方が早くなり、詰まる前に交換できるとの九州電力の説明は成立しなくなりました。
規制基準は、非常用ディーゼル発電機のフィルターが火山灰で目詰まりを起こし、機能喪失に陥ることがないよう要求しています。しかし再稼働されようとしている玄海原発3・4号機は、九電による評価によっても新しい基準の要求を満たしていません。
そもそもフィルター交換について、1台ずつ止めて交換を交互に繰り返すという現状のやり方は、単一故障の仮定に基づき2台とも機能維持しなければならないという現行の基準に違反しています。
火山噴火の降灰により、玄海原発が全電源喪失となる恐れがあります。その場合の重大事故対策についても、高濃度の降灰がある状況で機能するかどうかは未確認です。
玄海原発3・4号機は火山灰に対し脆弱で危険な状態にあります。国の許可を一旦取り消し、再審査を行わない限り、再稼働を許すべきではありません。
【要請事項】
一.火山灰濃度の新基準の要求を満たさず、単一故障の仮定に基づく現行の基準にも違反し、火山灰に対して脆弱な状態にある玄海原発3・4号機の再稼働同意を撤回し、新たな基準の下での審査のやり直しをさせるよう求めます。
二.この問題について、九州電力、原子力規制委員会に説明を求めてください。
以上、県としてどのように対処されるのか、2週間以内の回答を求めます。
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◆全電源喪失は許されない
原発の審査で用いられる規則及び火山影響評価ガイドは、外気取入口からの火山灰の侵入によるフィルターの目詰まり等によって非常用ディーゼル発電機が機能喪失とならないことを要求しています。九州電力は、火山灰濃度を想定した上で、フィルターが詰まるまでの時間と、フィルター交換に要する時間を評価し、余裕をもって交換できることを示し、規制委から許可を得ていました。
原発の外部電源が喪失した場合、頼みの綱となるのが非常用ディーゼル発電機です。玄海原発は非常用ディーゼル発電機が2台ずつありますが、2台とも機能を失うようなことがあると全電源喪失となります。東電福島原発事故においても、津波により非常用ディーゼル発電機の機能がすべて失われ、全電源喪失となり、炉心が溶融する重大な事故に至りました。福島原発事故の悲劇を繰り返さないためにも、全電源喪失は絶対に防がなければなりません。
◆火山灰濃度を従来の100倍規模に
評価に用いる火山灰濃度については、現状で用いられているアイスランドや米国セントヘレンズ火山での観測値に基づく基準では過小評価であることが、専門家や裁判の原告らによっても指摘されてきました。福岡高裁宮崎支部も昨年4月6日の仮処分決定で過小評価を認定していました。
規制委は今年になって、外部専門家を交えた火山灰濃度の規制に関する「検討チーム」を立ち上げ、その中で規制庁は3つの方法で試算を行い、その2つを採用しましたが、いずれも現状(セントヘレンズ火山の観測値)の100倍規模となりました。規制委はこれを「参考濃度」と名付け、当初は基準とはしない姿勢も見せていましたが、7月19日に了承した「基本的考え方」において、基準として取り扱うことを決めました。
◆現状では新しい基準を満たさない
九州電力は、玄海原発3・4号機について、新基準での試算を行いました。参考濃度(約3.8g/㎥)が交換の限界となる限界濃度(約0.9g/㎥)の4倍を超えました。現状では新しい基準の要求を満たさないことを九電自身が明らかにしたのです。
◆単一故障の仮定から現行の基準にも違反している
さらに規制委が、単一故障の仮定により、電源2系統の機能維持を要求したことから、この点からも基準違反であることが明らかになりました。
玄海原発を含む加圧水型原発はすべて非常用ディーゼル発電機が2台しかなく、電力会社は1台ずつ交互に止めてフィルター交換を繰り返すことにしていました。この状態で1台が故障してしまうと2台とも止まってしまいます。規制基準は、単一故障の仮定により1台が故障しても安全機能を維持することを要求しており、これに反します。本来ならば、非常用ディーゼル発電機は、各原子炉に3台必要であったことになります。このことは新知見や新基準には直接関係なく、現行の基準に反することになります。即座の対応が必要です。
九電は、7月26日の私達との交渉の場で、「適用除外を受けており、規制委の審査も受けている」と回答しています。しかしこれは、通常運転時に1台が止まっても、もう一台の健全性が確認できれば直ぐに原子炉を止めなくてもよいというものであり、外部電源喪失という緊急時に、原子炉を停止して冷温停止状態にもっていく際に、フィルター交換のために、はじめから1台を止める設計にしてよいのかという話とはまったく異なります。規制庁は「検討チーム」において、それは許されないと明確に述べています。
◆電力会社は新しい基準をクリアすることを今後の課題としている
電力会社は、フィルターの性能を向上させるとともに、発電機を動かしながらフィルター交換ができるようにして、2系統の機能維持をクリアするとしています。しかしいずれも今後の課題です。
◆高濃度降灰時の重大事故対策についても未確認
全電源喪失になった場合、新規制基準は、重大事故対策として可搬型の電源車などを備えるよう要求しています。しかし、移動のルートが確保など、高濃度の降灰時に機能するのかについては未確認の状態です。
◆玄海原発3・4号機の再稼働準備をいったん止め、審査のやり直しを
玄海原発3・4号機は、現状で、新しい基準をクリアできていませんし、単一故障の仮定を考慮しなければならない現行の基準もクリアできていません。九電が想定している九重山などで火山噴火が発生した場合、玄海原発で火山灰によって非常用ディーゼル発電機が2台とも倒れ、全電源喪失に陥る可能性があます。全電源喪失に陥った場合の重大事故対策の妥当性は未確認です。玄海原発3・4号機は基準違反であるばかりでなく、大変危険な状況にあると言えます。再稼働の準備をいったん止め、審査をやり直さなければなりません。
一.火山灰濃度の新基準の要求を満たさず、単一故障の仮定に基づく現行の基準にも違反し、火山灰に対して脆弱な状態にある玄海原発3・4号機の再稼働同意を撤回し、新たな基準の下での審査のやり直しをさせるよう求めます。
二.この問題について、九州電力、原子力規制委員会に説明を求めてください。