10月4日、福岡高裁(久留島群一裁判長)にて、玄海原発控訴審口頭弁論(全基差止第8回と行政訴訟第7回)が開かれました。
今回も多くの仲間が法廷に集まる中、控訴人の吉良文江さんと田中雅之さんが意見陳述を行いました。
前回の控訴人準備書面の主張に対して、国は火山巨大噴火に関する準備書面を提出、九電からはありませんでした。
裁判傍聴することも「原発反対!」の意思表明です。
次回以降も、多くのみなさんの傍聴・注目をよろしくお願いします。
◆今後の口頭弁論日程
2024年1月17日(水)14:30~
4月24日(水)14:30~
7月3日(水)14:30~
◆裁判書面(行政)
◆控訴人意見陳述
陳 述 書
2023年10月4日
福岡市
吉良文江
私は吉良文江と申します。福岡市城南区に住む主婦です。
福島原発事故があった時は、私の仲間の福岡市議会議員選挙の真っただ中でした。選挙終了後、政治とは何か、生活とは何かを考えさせられました。福島を自分の目で見て考えようと、2012年11月に福島県田村市と、福島市の中通りを訪れました。先に福島から福岡に避難してきていた人に相談して、福島を案内してくれる人を紹介してもらいました。
田村で会った人は、障がい者を支援するNPOのスタッフでした。福島原発事故が起こった時、施設利用者の人たちを帰せる人は帰し、他の人は一緒に避難をしました。しかし、避難所で過ごすには不便すぎるのでホテルに避難したそうです。その後、一時避難の後、NPOの人たちは近辺の放射線の測定を始めました。他にも、たくさんの人が野菜など大丈夫だろうかと検査しにやってきました。その事務所の近くに山がありました。原発事故があった時、その山の木々はすべて葉を落とし、翌年には木々に大きな葉っぱ、肉ぶとの葉っぱなど、いつもと違う形の葉っぱができていたと話してくれました。
福島の中通りを案内してくれた人は廃炉に向けての活動をしていた人で、原発事故が起こった翌日に大きな集会を予定していたそうで、「遅かった」と悔やんでいました。また、一番の後悔は、断水で人々が給水車の水を待っている時に放射性プルームが来て雨が降り出し、雨の中で給水を受ける間にたくさんの人たちが被曝したということでした。
中通りでは、小学校の通学路や放射能に汚染されやすい場所、がれきの処理をするのに防護服やマスクもせずに機械で粉塵を上げている人たち、家の庭にためられたフレコンバッグを見ました。その家の住人は、いつ持っていってくれるんだろうか、不安でたまらないと話していました。それらの場所を線量計で測りながら案内してもらいました。
避難については、人々に逃げろと呼びかけましたが、自分は老いた父親が施設にいて、逃げられる状況ではなく、逃げられなかったと話してくれました。
中学生の子を持つお母さんから話を聞くこともできました。中通りには阿武隈川が流れているのですが、その土手は人々の散歩道でもあり、中学校のマラソンコースでした。しかし、その土手の道の端に看板が立っていて、「ここから下は危険なので中に入ってはいけません」と書かれてありました。放射線量が高かったからです。お母さんは中学校にこの土手のマラソンコースでの練習は止めてくれとお願いしました。しかし中学校は「土手で走らない子はグラウンドを走るようにしています。そこで練習して下さい」と言われました。お母さんは、こんなに放射線量が高いのにと思いましたが、子どもが友だちと一緒に土手を走ると言うのであきらめました。でも、中学校に対する怒りはおさまらないようでした。
その11年前と今で、状況は変わっているでしょうか。壊れた原子炉建屋の処理や溶け落ちたデブリの回収は未だにできていませんし、決まった廃炉処理の工程もほとんど進んでいません。
福島第一原発事故で福岡県に避難してきた人々の中には、関東からの人もたくさんいました。その中に千葉からの人がいました。彼女の避難の理由は、子どもの鼻血でした。近所の子どもたちの多くが事故前に比べ多くの量の鼻血を出していたそうです。それでここに居ては危ないと、福岡に越してきたのです。千葉は福島第一原発から100キロメートル圏内のところです。一方、福岡市は玄海原発から50キロ圏内です。玄海原発で事故が起きて放射能が西風に乗れば、福岡も大きな被害となり、さらに本州まで被害は及ぶでしょう。
原発は維持、管理にとても手が掛かります。老朽化の問題も加わります。核のゴミの処理はいまだ解決策も見出されていません。さらに大きな問題は汚染水の海洋放出です。壊れた原子炉や燃料デブリに触れた水を海洋に流すのは許されないことです。このことはすべての原発に関わる大きな問題です。
そして今、原発はなくても電気は足りています。この状況で玄海原発が稼働することは反対です。避難計画も国や県の指示待ちで、実効性があるものとは思われません。玄海原発の配管ひび割れによる放射能漏れや度重なる火災事故など九州電力の対策や説明に十分納得できません。
子や孫やずっと未来の世代に負の遺産を残したくありません。
再び事故が起こったら取り返しがつきません。すぐに原発を廃止してください。
よろしくお願いいたします。
陳 述 書
2023年10月4日
福岡県糸島市
田中雅之
私は、田中雅之と申します。
私が原発反対運動を始めた動機は、子や孫の世代に使用済み核燃料を残してはいけないと思ったからです。使用済み核燃料は、10万年間保管しなければなりません。今から10万年の間の子や孫の世代からうらまれ、ろくに管理できない原子力を弄んで金儲けをする現代人は軽蔑されるでしょう。
私は、福岡県糸島市に生まれました。唐津市と福岡市の間に位置します。糸島市の人口10万人のうち、15%が玄海原発30キロ圏内に属しますので避難計画があります。逆に言うと85%の住民は30キロ圏外に属し、避難計画が実質的にありません。実質的にという意味は、避難計画の中には30キロ圏外のことも触れてありますが、その避難計画は原発事故時には臨機応変に対応すべしと記されているのみだからです。
更に30キロ圏外には、福岡市とその近郊の都市や北九州市がありますが、実効性のある避難計画があるのでしょうか。福島の事故時の放射能の7割は、偏西風により太平洋に飛んでいきました。日本地図の玄海町を福島市に合わせると、偏西風により山口県から中国地方にも放射能汚染が広がることがわかります。北部九州の要の、福岡市と北九州は、ほぼ避難区域となるでしょう。九州の経済だけではなく、日本全国の経済にも壊滅的な打撃を与えるでしょう。
次に「原発のメリットとデメリット」についてお話しします。
原発のデメリットは、前述した経済的影響は二次的なものであり、一次的には、人が汚染されることです。人の生死に関わることです。特に玄海原発3号機はモックス燃料を使用しています。モックス燃料は使用済燃料に含まれるプルトニウムを消費するために、通常のウラン発電により生成されたプルトニウムと減損ウラン(劣化ウラン)を混合して作られるものです。現在、日本中の原発で生成されたプルトニウムは約47トンあり、これは長崎に投下された原爆を4,000発分作る量にあたります。プルトニウムは原爆の材料です。大量のプルトニウムを少しでも減らしているという姿勢を国際社会にアピールするために、モックス燃料を作って使用しています。
モックス燃料使用は、石油ストーブにガソリンを入れて使用することに例えられるほど危険です。
一方メリットですが、原発発電コストは安いと政府が主張しています。
日本の「電源別発電コスト」
資源エネルギー庁が2021年発表したコストによれば、
電源種類 |
2020年試算 発電コスト(円/kWh) |
2030年試算 発電コスト(円/kWh) |
石炭火力 |
12.5 |
13.6~22.4 |
LNG火力 |
10.7 |
10.7~14.3 |
原子力 |
11.5~ |
11.7~ |
石油火力 |
26.7 |
24.9~27.6 |
陸上風力 |
19.8 |
9.8~17.2 |
洋上風力 |
30.0 |
25.9 |
太陽光(業務用) |
12.9 |
8.2~11.8 |
太陽光(住宅) |
17.7 |
8.7~14.9 |
2030年コストでは、原子力発電コストと再エネ発電コストはほぼ同じだと主張しているのであろうと思います。
米国の「電源別発電コスト」
IEA(国際エネルギー機関)、米国政府、調査会社、投資会社のほぼ全てが「原発より再エネのほうが大幅に安い」としています。米投資会社Lazardが公表した発電コストのグラフでは、太陽光発電コストは2009年から急落して2021年には、原子力発電コストの四分の一程度になっています。日本政府が発表した数値はダイナミックに変化している技術や市場を十分に反映していません。原発の建設費や使用済み核燃料の処分費については、欧米に較べ低く見積もられています。
「再エネのほうが原発より安い」が世界のスタンダードです。
総括原価方式・地域独占により高い電気を買わされる企業は他国との競争に後れを取ります。市民は高い電気料と消費税により苦しんでいます。
東京電力は福島事故後も存続していますが、九州電力は福岡市等の北部九州が汚染された時に存続できるでしょうか。私は、無理だと思います。市民の生活を壊し、自らの会社も存続できない。誰の得にもならない原発はすぐに廃棄するべきです。
裁判官の皆様、技術的に不完全であり、危険でコスト的にも割の合わない原子力発電をすぐに止めてください。お願いいたします。