9月3・4日、国、佐賀県・長崎県・福岡県・30キロ圏8市町は合同で玄海原発の原子力災害対策・避難訓練を実施しました。私たちは各地の訓練を手分けして見学してきました。主な問題点を報告します。
(1)離島避難
玄海原発30キロ圏には離島が全国の原発で最多の17島あり、19,000人が暮らす。離島住民の避難は困難を極める(裁判ニュース前号参照)。今回避難訓練が行われたのは、原発から8.3キロにある唐津市・加唐(かから)島。玄海原発が海の向こうに見える。島の人口は66世帯144人。10年間で人口が3分の1減少するなど、過疎化・高齢化が進んでいる。
・坂道が多く、道は狭い。杖をついている方も多い。複合災害時に住民がスムーズに移動するのは困難。
・計画では屋内退避→避難という手順だが、「今日は『避難』訓練なので、屋内退避訓練はしない。あれこれやると、住民が混乱するから」と職員。
・安定ヨウ素剤は、島で唯一備蓄している診療所から医師が集合場所へ持参。医師が2、3分の説明後、一人ひとり問診もせずにヨウ素剤に見立てた飴玉を配布。
・島民の声
「原発は目と鼻の先にある。何かあったらおしまい」
「事故はいつ起きるか分からん。不安でいっぱいだ。津波よりも原発が怖か」
「防災無線?畑とか海にいたら、聞こえないね」
「蛇腹式テントに1週間も籠っていられないよ。俺は3時間が限界だな」
「イカ漁師だが、事故になったらとても売り物にならない。海も山もだめになってしまう」
「親から跡をついで漁師になったが、避難したら、そこでまた漁師?とても考えられない」
(2)特別養護老人ホーム
<原発5キロの特別養護老人ホーム宝寿荘(唐津市)>
・入所者70人、寝たきりの方は10人。放射線防護対策工事はデイサービス棟(25名定員)の2棟だけ。
・今回の訓練では、実際に避難する入所者は80歳~96歳の4人、うち2人が車椅子。福祉車両2台で多久市の福祉施設に運ぶ。保有車両は2台しかなく、受け入れ施設からも応援車両が来て、往復ピストン輸送させる計画だが、全員を避難させるには長時間かかる。
・ヨウ素剤は施設に備蓄されていたが、訓練では配布されず。
・自衛隊の救急車両は二段ベッドに県職員がダミーとして乗ったが、実際に寝たきりの方がこのスペースで、何時間も揺られての移動は過酷。
・防護服を着ていたのは警察の2人だけ。他の入所者、職員はマスクもせず、特に放射線防護対策なし。
・ロビーで出発を待つ時、一人の入所者が看護師の手を握りながら、童謡を歌い始めた。途中から「♪貴様と俺とは...咲いた花なら 散るのは覚悟 みごと散りましょ 国のため」と、"同期の桜"を歌いだした。「もうここには戻れない」と感じ、特攻隊と重なったのか。看護師は「私がずっとついとるけんね。今日はまたここに一緒に戻ってくるのよ。大丈夫」と、なだめていた。
<原発3キロの特別養護老人ホーム玄海園(玄海町)>
・自衛隊ヘリ搬送訓練は入所者一人だけ。
・外からの救援者を除染する「除染テント」の設置訓練が行われたが、流水シャワー設備は使用しなかった。
・汚染水はどうするのか聞くと、担当者は「下水に流す」と答えたが、それでは汚染を拡大させてしまう。
・屋内退避用に3日分の飲食物が備蓄されているという。利用者に見合ったゼリー食、流動食、ソフト食などは用意されるのか。
(3)住民避難
・高線量に汚染されてからの避難指示が出されるのに、そうした注意喚起がまったくされていなかった。
・福岡県ではペット同行避難訓練や除染訓練も行われたが、佐賀県では同様の訓練は行われず。
・玄海町の小中一貫校みらい学園は、原発から5.5キロだが、ヨウ素剤の備蓄もない、防護服もない、線量計さえもないという状態だった。
(4)スクリーニング・除染
・住民避難でスクリーニング・除染訓練が行われたのは今年も佐賀県では1か所だけだった。
・会場となった多久市陸上競技場は国道203号から脇道に入るところにあり、避難車両はここに寄らないで、素通りしてしまう恐れがある。
・会場で扇風機がまわっていた。事故時にそんなことをしたら、放射能拡散につながる。
・車の除染で、昨年佐賀県で使われていた粘着式カーペットクリーナー(コロコロ)。市民の指摘に対して国はコロコロの除染効果を「ちょっとアレですね」と回答。そして、今年は高圧洗浄水による除染に戻った。汚染水の処理方法については具体的に決まっていない。水がない場合はどうするかと訊ねると「バスや自動車はふき取りで除染する」ということだった。
一方、福岡県の除染訓練では今年初めてコロコロを使っていた。
・人の除染はシャワー除染も行う計画だが、訓練では、ふきとりによる簡易除染しか行われなかった。
(5)オフサイトセンター
・全体の司令塔となるオフサイトセンターは原発から12キロ地点にある。福島の時と同じように、ここ自体が避難しなければならなくなるのではないか。
・マイクの声も聞き取りにくく、刻々と変わる情報を全体で共有できているのか、疑問に感じた。
・緊急事態宣言が発令される前、手持無沙汰のスタッフも少なくなかった。現実には情報収集、電話などの対応だけでかなりバタつくのではないだろうか。
(6)"本番"とかけ離れた訓練想定
・今回の想定は「佐賀県北部で震度7の地震が発生し、玄海原発が全面緊急事態になる」というものだが、地震による道路寸断や電気・ガス・水道・通信などライフラインの寸断はほとんど想定されていなかった。
・国と現地をつないだ原子力災害対策本部の会議で原子力規制委員長は「新規制基準のもとで対策をとっており、格納容器破損までに2日間の十分な時間的余裕がある」と述べた。最悪の場合、20分でメルトダウンというケースを九電自身が想定しているのに。
(7)あまりに少ない訓練参加人数、広報不足
・佐賀県内の訓練参加人数は2万5929人。うち、住民避難訓練参加者は854人。82万県民の0.1%にすぎない。大部分の2万2979人は屋内退避訓練(学校や病院などでほとんどは別の日に実施)だけの参加人数。
・訓練詳細の公表は訓練5日前。30キロ圏へのチラシ配布は2日前の9月1日。直前すぎる。全住民への周知徹底を図り、全員が参加する訓練を実施すべきだ。
・当日は、災害情報メールは流れたものの、放送などは訓練を実施する限られた地域にしか流れなかった。
(8)屋内退避
国は玄海避難訓練に際して「原発は地震で止まる。屋内退避が有効。放射線対策は必要があれば指示を出すから心配する必要ない」(7月12日、田中俊一・前原子力規制委員長)との考えを示した。
山口佐賀県知事も、訓練後の会見で「屋内退避をしていただく、要はむやみに外に出て道路の状況などを混乱させないようなオペレーションをしっかりやっていく」「要は、原子力事故に対して、屋内にいる、まさに壁の中にいることの意義があって、今のUPZというものがある。その説明をもうちょっとしっかりやっていきたい。むしろ外に出るということがどういうことなのか」と述べた。
被ばくを前提とした「屋内退避」を主とするのではなく、「とっとと逃げる」ことを基本にすべきだ。
(9)避難計画と再稼働を切り離す、無責任な知事
・知事は避難訓練について、「オフサイトがどう機能するのかについて、本番さながらにできた」が、「住民避難訓練については、まだまだそんな本番さながらの訓練とは申し上げられない」と述べた(9月20日佐賀県議会一般質問)。本番とかけ離れた訓練で、その実効性を確認することなどできない。
・内閣府の荒木真一大臣官房審議官は訓練終了後、「課題を抽出し、本年度内にまとめたい」と語ったが、訓練の総括や課題を県民に公表し、少なくとも再稼働前に対策を講じる必要がある。
・知事はこれまで「原発が稼働している、していないに関わらず、使用済核燃料が現に存在しており、原子力災害対策は常に極めて重要」「避難計画と再稼働の問題はリンクさせるべきではない」(9月6日記者会見など)と、繰り返し述べてきた。再稼働することにより核燃料は臨界に達し、発熱量は高まり、危険性は格段に高まることを、知事は意図的に無視している。住民のリスクが高まった責任は、再稼働に同意した知事にある。
★原発で事故が起きれば、放射能被ばくを強いられ、ふるさとが丸ごと奪われる。今ある避難計画では命を守れない。再稼働迫る今こそ、声をさらに大きく、問題点を具体的に指摘していこう。そうした中での再稼働などあってはならないし、このような理不尽なことを強いる原発はいらないという世論を高めていこう。
※『玄海プルサーマル裁判ニュース25号』より