【「国富=自然との共生生活を奪われた」~4/23控訴審報告】

 4月23日、福岡高裁(久留島群一裁判長)にて、玄海原発控訴審口頭弁論(全基差止第14回と行政訴訟第13回)が開かれました。

 

 福岡は朝から雨で肌寒かったのですが、午後には雨も上がりました。荒川副団長の力強い挨拶で門前集会が始まり、思いのこもったアピールが次々と続きました。大阪の弁護団と補佐人の小山さん、九州各県(鹿児島、熊本、大分、佐賀、福岡)の原告と支援者に加えて、今回は金沢から浅田さんご夫妻も駆けつけてくださいました。

 

 行政訴訟では、国(被控訴人)側の「プレゼンテーション」がありました。争点となっている基準地震動に関して、参加人により20頁に及ぶ陳述書が読み上げられました。本来、基準地震動の策定には「経験式が有するばらつき」(平均値と観測データとの乖離)を考慮する必要があるのですが、国は「不確かさ」(震源断層の形状等)を考慮すれば足りる、法令違反ではないという趣旨の主張を繰り返すだけでした。解釈の変更・曲解により基準を緩めようとする国の姿勢には、福島原発事故への反省が微塵も感じられませんでした。

 また、国は火山に関する書面を新たに提出するとのこと。そのため、私達控訴人が反論する場合は、7月15日に結審とならないかもしれません。予備日として9月4日が設定されました。

 なお、国が新たに提出する書面は、福岡高裁で係争中の川内原発行政訴訟で提出したものと同じ内容と思われます。同訴訟は火山ガイドが主要な争点になっており、控訴人は火山ガイドの不合理性を主張しています。昨年12月18日に結審の予定でしたが、国が新たな主張をしたため弁論続行となり、今年3月26日に結審しました。判決は今年8月27日です。

参考:川内原発行政訴訟弁護団ウェブサイト https://tinyurl.com/m6vjmvzd

 

 全基差止訴訟では、浅田正文さんが意見陳述をされました。現在、金沢市在住の浅田さんは福島原発事故の避難者です。事故前は福島で自然農をされ、「自然からの贈り物に溢れた生活」を送られていたそうです。

 しかし、原発事故を機に平穏な日々が一変。家も田圃も放射能に汚染され、避難を余儀なくされます。数か月後に一時帰宅したところ、心を刺すような言葉を言われます。「戻ってこない人がいるから風評が無くならない」。今なお浅田さんは、避難した後ろめたさに襲われるそうです。

 国の富とは経済的なものではなく、豊かな国土とそこに根を下ろした穏やかな生活があること。原発事故は人から故郷を奪い、国富と生業の喪失をもたらす。土や水を汚すだけでなく、人の心に深い傷を与える。浅田さんの言葉は、目に見えない被害の深刻さを伝えるとともに、真の豊かさとは何かを考えさせるものでした。閉廷後、あたたかな拍手が傍聴席から沸き起こりました。

 全基差止は7月15日に結審です。

 

 報告集会では、石丸初美原告団長より、玄海町での文献調査と「対話を行う場」に関する詳しい報告がありました。また、「核ゴミお断り!10万年先の子どもも守る九州の会」(核ゴミ10万年の会)の説明もあり、意見交換が続きました。発言の一部をご紹介します。

・大事なことが知らされないまま、文献調査が進められている。玄海町での戸別訪問では、「賛成」「反対」というよりも「よく分からない」という声がほとんどだった。

・地層処分の対象には、半減期が長く放射能毒性が強い「TRU廃棄物」も含まれる。TRU廃棄物は、地下埋設後10年ほどで放射能漏洩の危険性がある。そのようなことも知らされていない。

・「対話を行う場」への参加者20名の内、一般公募での参加は5名。3か月ごとに開催しても、玄海町(人口約5,000人)の中で参加できるのはごくわずか。玄海町民以外は参加できず、討議の様子は非公開。進め方自体に問題がある。

・「核のゴミ」という言葉の後に「死の灰」と付けたほうがいい。「ゴミ」という表現だけでは危険性が伝わらない。「ゴミ」と言っても近寄っただけで死ぬ。そんな危険な「ゴミ」はない。「ゴミ」でなく「毒」!

・国の原子力政策の根本は「棄民」。原発事故避難者がどれだけ苦しい思いをされ、耐えてこられ、今なお苦しんでいるか。にもかかわらず、国は早々に避難指示を解除し、福島に戻れという。最終処分場の選定も、根本に「棄民」があるのではないか。

・言葉を知らない赤ちゃんは、いやだと思っても声を上げることができない。私達が声を上げなければ、国の方針は変わらない。

 

 福岡高裁では、九州避難者訴訟や上述の川内原発行政訴訟も係争中で、前者は5月22日に結審の予定です。私達の裁判も大詰めを迎えています。今年2月、政府は第7次エネルギー基本計画を閣議決定し、原発回帰を鮮明にしました。岐路に立つ今、あらためて脱原発へ舵を切らなければと思います。私達市民の手で。


◆裁判書面(行政)

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20250416行政被控訴人準備書面6●.pdf
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20250416行政被控訴人口頭陳述要旨●.pdf
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◆控訴人意見陳述

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20250423意見陳述全基浅田正文●.pdf
PDFファイル 266.2 KB

陳 述 書

2025年4月23日

浅田正文(福島原発事故避難者)

石川県金沢市

はじめに

 浅田正文です。私は福島原発事故に遭い石川県金沢市へ避難を余儀なくされています。原発事故被害者として陳述します。

 

東京電力福島第一原発事故 ―― <国富>とも言える自然との共生生活を奪われた ――

 私は54歳で早期退職し東京から福島へ移り住みました。俗に言う「Iターン」です。移住して数年後に<自然農>に出会うと共に、自給自足を目指した生活になっていきました。自然農は、無農薬・無肥料・雑草を抜かず・虫を敵とせず・土地の持つ力を引き出す農法であり、命の賑わう畑です。青空のもと足踏み脱穀機の木霊を聞き、自家製大豆で豆腐を毎週造り、ゆったりした時の流れに身を預けた平穏な日々、<国富>そのものでした。

かつての上司が来られ、散歩時に摘んだ?の芽を天ぷらにしたところ、味にうるさい上司が「料亭で食べるものと全く違う食べ物だ」と絶賛。お金には換算できない自然からの贈り物に溢れた生活でした。

 一方、米・大豆・雑穀などを1年分備蓄し、薪ストーブ・薪風呂・太陽熱温水器・井戸水の生活。十分な備蓄があり災害に最も強い生活であり避難の必要のない生活だと妻と話し合っていたものです。

 ところが2011年3月11日に放射性物質が降ってきました。我が家は原発から25Kmですが避難指示が出されました。田圃への生活道の土壌汚染は100万ベクレル/㎡を超えました。チェルノブイリ事故の避難義務ゾーンの2倍です。自然農にとって致命的なダメージです。

 事故直後に発せられた「原子力緊急事態宣言」が現在も発令中であり事故は継続しています。汚染された土地、住めない土地が出来てしまったことは、<国土の喪失>と言っても過言ではありません。

 

避難生活   ―― 深い傷が心に ――

 避難生活(居候生活)が始まり、居候の息苦しさからある日、兼六園(日本3大庭園)へ行きました。福島で寒さに慣れているはずなのに寒さが足元からぐんぐん上ってきます。寒さが心に追い打ちをかけたと思えてなりません。

  避難数か月後、一時帰宅しました。その時に知人から「私たち残った者で除染をしたのよ。あなたのように戻ってこない人がいるから風評が無くならないのよ」と面と向かって言われました。口に出さずとも同じ気持ちの人が沢山いるのだろう、と感じざるを得ません。朝5時からの草刈りや、葬式準備も集落が一体になり進める濃密なコミュニティです。帰還しても村人と付き合えるのだろうか?全く自信がありません。

 加えて、青年が福島のために働きたいと帰還のニュースを見るにつけ、避難した後めたさに襲われます。

原 発事故は土・水を汚染するばかりではなく、言い表わしようのない傷を心にも刺し込んだのです。

 

能登半島地震 ―― 避難不可能が露わに ――

 昨年元日に能登半島地震が発生、震源の珠洲市は震度7、原発立地の志賀町も震度7。土砂崩れ多発と、家屋が道路へ倒壊し陸路避難不可。海岸が最大5.2m隆起し海路避難も不可。悪天候で空路避難も不可。家屋損壊で自宅待機も不可。避難計画が絵に描いた餅であることが露わになりました。

 防災センター(要配慮者避難用の陽圧設計)は地震に耐えましたが、附属する合併浄化槽は地盤隆起・陥没で使用できず簡易トイレを屋外に設置する始末でした。原発事故が重なれば被曝必至です。設計の盲点、想定外だったと感じずにはおられません。

 

原発は危険 ―― 想定外は許されない ――

 人口密集地に原発は建っていません。原発は危険なのです。地震大国日本・中央構造線・南海トラフ・未確認活断層・地震予知の難しさ、火山国・火山灰堆積、脆性破壊・金属疲労、設計ミス・工事ミス・ヒューマンエラー、等々。原発事故に<想定外>との言い逃れは許されません。

 

おわりに

 僭越ながら <大飯原発運転差止判決2014-5-21福井地方裁判所 樋口英明裁判長> の判決文の一部を読み上げます。(陳述時間の制限上、趣旨を変えず表現を若干変更)

 

・個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益はその総体が人格権であり、人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。

・豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富である。

 

 東電は、爆発を免れた福島第二原発の全機廃炉に難色を示しましたが、廃炉を求める福島県民と知事の大きな怒り、故郷を汚された悔しさ、強い要求に抗えずに2019年7月31日に廃炉を決断しました。

 

 久留島群一裁判長様、山下隼人裁判官様、渡邊典子裁判官様。何よりも国富の喪失、生業の喪失を、身をもって体験した福島県民の原発はもうこりごりとの願い、思いを共にしていただきたい。フクシマを再び起こしてはなりません。